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世界に誇る「Made in Japan」ファッションブランドとして、従来とは異なるビジネスモデルで、経営理念の実現を目指すファクトリエの物語から考えたことをまとめました。

同社のビジネスモデルは、一見、斬新なアプローチだけれど、SWOT分析等から戦略を立案すると、他のモデルはなかったのでは無いかという、少し逆説的な解釈でもあります。

日経ビジネスの記事を面白いなと思い、山田氏の書籍を手にしたところからの話です。

従来と異なるアプローチ

販売面の特徴は、店舗は最小限でインターネットが中心であることです。

今ではフィッティングを目的とした直営店舗に加え、イベント的な出展もしているようですが、創業当時は店舗ゼロで、山田社長がワイシャツを売り歩いたこともあったようです。

ここは、最近他社でも見られるアプローチですね。店舗運営による固定費と、(多分ネットより多額になるであろう)在庫の最小化が考えられます。

生産面と特徴は、日本国内の工場から直接仕入れと、工場のストーリーを前面に出していることでしょう。

通常の製品のデザインを重視するだけではなく、工場の製品にかける思いをストーリーにしブランド化して販売促進に活用しています。

同業他社を苦しめるバーゲンを行わず、工場主体の価格設定で売り切っているところは、同業界ではものすごいことです。

それでも原価率は50%強らしいです。

一般的に言われる、「今買った洋服にはバーゲンで安売りされる、それでも残ってしまい破棄されるコストも含んでいる」ということはないはずで、消費者にフェアな価格ですね。

これは、洋服というモノの消費から、“ものづくりへの思いやストーリー”というコトの消費への転換の成功例と言えます。

強い経営理念のもとで

創業社長の多くの会社に見られるように、ゼロから何かを作り上げた背景には、明確なゴールの設定や強い使命感等、骨太な経営理念があります(あることが多いと思います)。

同氏は、学生時代に過ごしたパリで、「世界に誇れる日本のブランドをつくりたい」という強い思いを持ちました。ヨーロッパでは、完成品のデザインだけではなく、どの様に作られたかの工程も大切にされるとのことです。

同氏が学生以降を過ごした15~20年は、まさにアパレル業界全体が苦戦し販売会社が体力を落とし、生産拠点も海外へ移る中で生産者も廃業などにより減少を続けた時代です。

その様な環境下で、高い技術力を持つが世に知られることのなかった国内の生産者を前面に出したい、ブランド化したいというアプローチは、「山田社長の思い」と「世の中の不(便)」が上手く絡み合っているのだと思います。

本にも書かれていますがインターネット技術の発展や、低成長時代下で消費パターンも社会的な意味合いが重視される様になったことも、事業の追い風になっているでしょう。

環境分析/SWOT分析から考えると

一方で、自社の経営理念を実現するために、強み・弱み・機会・脅威の分析をすると、同社には他の戦い方は無かったのではないかとも思います。

斬新に見えるビジネスモデルも、理念の実現には他の戦い方はなかったとも思えます。もちろん、初めから確立された戦略ではなく、本書でも書かれている失敗を生かした最適化もあると思いますが。

一般的に、アパレルあるいはファッションブランドでは、“流行を追いかける”、“需要にいかに供給を追いつかせる”かが、戦略の重要な要素になっていると思います。

SWOT分析でいうところの外部環境である“機会”でしょうか。

ただ、一方で内部資源の分析は不十分なように思います。

他の書籍「誰がアパレルを殺すのか」で書かれていたのもこの点かなと思っています。

同社は失敗から学ぶ中で、少し広義になってしまうかもしれませんが、日本国内の工場の技術とその歴史(物語性)を、自社の商品とサービスに非常にうまく取り組んでいる

本書には、人材育成や社会的課題の解決など、商品・サービス以外の会社が社会に提供できる価値についても書かれています。

この点も、他に様々ある戦略論の良いとこ取りではなく、やはり自社の理念とそのもとで繰り返した内省(内部環境分析)があったはずです。

やはり、「流行を追う」から、「(自社だから提供できる)本当に良いものを提供する」、そのためには「価値をしっかりと伝える」に、時代は変わっていっているのかなと思います。

8つのキーワード

最後は、同社の8つのキーワードの引用です。

本を通じて学んだだけですが、やはり骨太ですよね!

長く使える

知的欲求を満たす

シンプルで伝わりやすい

工場を幸せにする社会性

共感を生む交流

長く大切に使ってもらうためのサービス

サプライズ

まじめでフレンドリーな人間性

ものがたりのあるものづくり 144ページ