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企業診断をしている時に限らず、やる気や生産性を考える時にも何かと便利な、モチベーション理論についてです。これは、切り口がわかりやすく納得感があるから、実施のイメージが付きやすいのだと思います。

 

働き方に多様性が出てきており、その色合いは随分弱くなってきていると思いますが、終身雇用制度をモチベーション理論から考えてみました。

 

これからの雇用のあり方を考える上でも、過去を知ることは重要ですよね。

 

モチベーション理論とは

 

モチベーションを語る時に非常に有名な、アメリカの心理学者であるアブハム・マズロー(1908年~1970年)が提唱した「欲求を5段階」があります。

これは、ひとつひとつの欲求が満たされることで、より高い欲求を満たそうとし、そのこと自体がモチベーションにつながるとしたものです。

 

低い段階から高い段階の欲求を並べると、以下になります。

生存欲求 安全欲求 所属欲求 承認欲求 自己実現欲求

安全欲求までは物質的で、社会的欲求以降がより高次な精神的であるとされています。

①生存欲求は、生きていくための基本的・本能的な欲求で、生理的欲求とも言われます。衣食住等、人に最低限必要なものへの欲求です。

 

②安全の欲求は、最低限の生活の次に来るもので、安全に安心して暮らしたいという欲求です。

 

③所属欲求は、個人の生活が満たされた次にくるもので、社会的や帰属的欲求とも言われます。集団に属したい、仲間がほしいと思う欲求で、ここが満たされないと孤独感や疎外感を感じます。

 

④承認欲求は、自我や尊厳欲求とも言われます。これは、自分自身の能力に自信を持ち、他人から認められたいや尊敬されたい欲求です。

 

⑤自己実現欲求は、社会に帰属し自己を認められた後に生まれる、さらに高次元の欲求です。これは、自分自身の能力を引き出し、創造的な活動がしたいとするもので、無限大の欲求とされています。

 

 

終身雇用制度から欲求の5段階から考える

 

現代は薄まりつつありますが、終身雇用制度は日本の経済・産業における、ひとつの大きな特徴です。

企業の商品・サービスの競争力を高める過程では、ただ「社員の業界や実務の経験が長い」だけではなく、「社員のモチベーション(士気)を維持・向上させる」においても、この終身雇用制度が大きな役割も果たしていたと言えると思います。

 

生存・安全欲求

 

まずは、終身雇用制度の大きな特徴ですが、一度就職すると余程のことがない限り、生涯にわたっての生存や安全欲求が確保されます。

少し前までは、年功序列制度により、長く勤めれば勤めるほど昇給し、より良い生活が送れる仕組みになっていました。このことで、日々の生活についてあまり心配することがなく、毎日の仕事に集中できるようになります。

実はこの家庭や日々の生活の心配事をなくすというのは、仕事の成果を高める上では基本的ですが重要だと思います。

 

所属欲求

 

そして次に、いわゆる大企業・有名企業に入社することが、多くの人にとり名誉な「自慢できる」ことであり、これは所属欲求からきていると思います。「○○株式会社の社員です」と自信を持って言うことですね。

終身雇用の前提では、学校を卒業してどの企業に属するかが、その後の何十年の社会人人生を決める大きなイベントでした。

 

一方で、企業の立場から見ると、まずは社員の自社への帰属意識を高めることは、強い組織や会社を作るうえでの第一歩とも考えられます。

名誉を与えるということよりも、「この会社でこの上司や同僚と一緒に働けて幸せだ」と感じてもらえると、社員が育ち強い組織が作れそうです。

 

承認欲求

 

その後に、企業の中で、同期など多くの他社員と競争しながら、ライバルよりも早く昇進し・良い給料をもらうことが承認欲求として働いていました。

テレビドラマ的かもしれませんが、「あいつはデキるやつだ」、「同期の中でも一番優秀だ」と思われる状況です。

 

会社や上司の立場からでは、この承認欲求を上手く利用することが重要です。

評価制度であれ日常のコミュニケーションであれ、部下の認められたいという欲求を上手く活用することが、人材育成と部門の成果の最大化につながります。

 

自己実現欲求

 

企業の中でも、実力を認められ、時に運をつかむことにより、新しい市場の開拓や新規事業の開発等の大きな挑戦することは、仕事と自分を重ね合わせで自己実現欲求を満たしたかもしれません。

 

ここのレベルに来ると、仕事で自己実現を得られる人と、また別のことで自己実現を得られる人に別れてきて、前者は少ないかもしれません。

 

ただ組織の多様性を確保する上では、今後は前者・後者それぞれで仕事の成果を最大限に高める必要があります。

また、国内外の企業との競争が増し、人材不足がさらに深刻化すると、仕事の前線から外れ「のんびり新聞を読みながら」、「窓の近くで」等といった働き方は今後存在しなくなりそうです。

 

最後に

 

終身雇用制度に照らし合わせながら欲求の5段階を考えると、私は改めてよくできた理論だなと思いました。

 

しかし、今後も終身雇用制度の意味合いは薄れていくものだと考えています。

世の中の変化が激しくなるなかで、同じ企業で長年勤めることが出来るのは幸せだと思いますが、時に新しい事や変化へのチャレンジは評価されることでもあるはずです。

 

今後、終身雇用でない雇用形態が増える中でのモチベーション理論は、また次回に考えたいと思います。